マンハッタンの片隅の、気さくな学際交流会

2017年4月29日 17:30

【4月】勉強会開催

2017年04月29日 17:30

【4月】勉強会を開催しました。
多数のご参加ありがとうございました!



「気候変動に対する生態系・社会の脆弱性:モンゴル放牧草原から学ぶこと

柿沼薫さん (Columbia University・NASA GISS・東工大)

気候変動は人類が直面する重大なリスクの一つです。今後、気温の上昇や干ばつ、洪水といった極端な気象現象が増える可能性が指摘されています。これらに備えるため、気候変動に対する生態系・社会の影響の受けやすさ(脆弱性)を理解することが重要です。NYCにいると気づきにくいですが、気候、生態系そして人々の生活は相互に関わりあっています。しかしながら、これまでの研究では、気候-生態系-社会を統合的に捉えることが少なく、気候変動に対する生態系・社会の脆弱性や影響はよくわかっていません。

東アジアに位置するモンゴルは、草原が広大に広がり、人々が家畜とともに移住を繰り返す"遊牧"が長く発達してきました。彼らの生活は、気候や生態系と密接に関わっており、気候変動下の人と自然の関係を検証するのに適しているといえます。今回の発表では、気候変動影響に関連する研究の現状を紹介するとともに、モンゴルでは歴史的にどのような気候-生態系-社会の関係が築かれてきたか、また将来の気候変動に対するそれらの脆弱性、そしてそこから我々が学ぶことを議論していきたいと思います。

まず何よりも、「モンゴル高原で現地の遊牧民の協力を得ながらフィールドワークを行った」という講師の経験談に、主にラボに籠って研究生活を送る聴衆は興味津々。
そしてまた、大規模災害に対する過去の事例や現時点での対応策、将来に向けての調査など、身近でありながらよく知らなかった「社会を支えるサイエンスの在り方」について知ることができ、大変有意義な質疑応答も交わされました。
生態系の研究と社会学や比較人類学や歴史学の間、学術研究と行政の間、異なる国や地域の間で情報の共有が為され、将来的にますます極端化すると予測される大規模災害から社会を守るよりよい方策が練られればと思います。


「知覚的意思決定の神経メカニズム」

岡澤剛起さん(New York University)

我々の生活は、単純な眼前の物体の識別から購買行動、職業選択に至るまで数々の意思決定の連鎖として成り立っていますが、その根底にあるのは我々の脳活動です。高度な脳メカニズムが人間らしい行動の選択を可能にしていることを考えると、このメカニズムには"人間とは何か"を探る手がかりが隠されているといえるでしょう。

神経科学の研究者らはこれまで、意思決定機能を理解するために実験室環境下で知覚に基づく単純な選択行動を行う際の神経メカニズムを詳細に検討してきました。これにより、限られた条件においてヒトの選択行動の正確性や選択にかかる時間、選択の確信度などを定量的に説明する理論的枠組みが発展しています。本発表ではそのようなヒトの意思決定を科学的に理解しようとする試みに触れていただきたいと思います。

「意思決定」とは一体どういったメカニズムで為されるのか。そこには、価値に基づく意思決定と知覚的な意思決定があり、本講演では後者についての研究が紹介されました。
ドット(点)が左右どちらの方向へ動いているかを見極める、というベーシックな知覚的意思決定の実験用動画が実際に流され、聴衆一同、張り切って挑戦したのはいいものの「難しい!」との悲鳴が上がりました(この実験をクリアできるサルたちすごい! と思いました)。
毎度の光景ですが、神経科学の専門的な質問もあれば、「サルの頭に電極を刺すの!?」といった初心者の驚きの声もあり、意欲的で活発な意見交換の場となって、脳神経がビシビシと刺激を受けたように感じられました。