マンハッタンの片隅の、気さくな学際交流会

2017年2月10日 19:00

【2月】勉強会開催

2017年02月10日 19:00

【2月】勉強会を開催しました。
多数のご参加、ありがとうございました!

「ブラックホールを見る」

市川 幸平さん(Columbia University, Astronomy)

ガリレオ・ガリレイが自身で作成した望遠鏡を用いて宇宙を観測してから400年余り。観測装置の発展と人々の叡智の積み重ねによって、我々が住んでいる天の川銀河や、宇宙に数多く存在する銀河の中心には、ほぼ必ずブラックホールが存在することがわかってきました。しかしこのブラックホール、彼ら自身が光を出すことは全くありません。では天文学者はどのようにして彼らを見つけ、「観測」しているのでしょうか。

ブラックホール自身は光を全く出さないため、ブラックホールそのものを見ることは非常に困難です。しかしブラックホールの重力場と、そこに落ち込むものによって作り出される降着円盤からの輝きが、ブラックホールの質量などの情報を与えてくれるのです。

今回は、そんなブラックホールに注目して、
・ブラックホールとは何か
・ブラックホールをどのように見るのか
・宇宙にあるちっちゃなブラックホール、おっきなブラックホール
について、観測屋の立場から紹介していきたいと思います。

「ブラックホール」という言葉自体は誰もが知るところですが、その正体が何かを知る機会は、日常ではあまりないと言えるでしょう。
本講演は「地球を直径5mmにしたらブラックホールになる」「デブ(な星)が爆発してブラックホールになる。シュッとするデブ(=超新星爆発を起こさない星)もいる」と、キャッチーな解説のオンパレード。
非常に楽しく宇宙物理学に触れることができた上、講師と同じく宇宙物理学を専門とする研究者が差し挟む質問や解説もまた興味深いものでした。


「遺伝子情報の編集スプライシング;幹細胞特異的なスプライシングの解析」

山崎 高志さん(Columbia University, Biology)

ヒトの全遺伝子暗号が初めて解読されてから十数年の月日が流れ、今日では人の全遺伝子暗号の解読そのものは特に珍しいことではなくなってきました。ヒトの遺伝情報は約30億塩基で記述され、約三万個の遺伝子が存在しており、すべての生物はその遺伝情報を巧みに利用することで生命活動を維持しています。

全遺伝子暗号の中から必要な情報を必要な時に必要な量のだけ使用する仕組みのことを遺伝子発現制御といいます。遺伝子発現制御は転写因子、クロマチン修飾、マイクロRNAなど、多様なメカニズムによって多重に制御されています。現在、私が研究しているスプライシングはそのような遺伝子発現調節機構の一つで、遺伝情報を切ったり張ったりして編集するメカニズムのことです。ほとんどの生物はこの編集作業によって遺伝情報を大幅に増幅することで、多様な生命活動に対応しています。

特に最近はES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞についての研究をおこなっており、TCF3と呼ばれる幹細胞にとって重要な遺伝子のスプライシング制御メカニズムの解明に取り組んでいます。さらにそのメカニズムが徐々に明らかになっていくにつれて、新たに疾病との関係性も明らかになってきました。本講演では遺伝子発現制御の中ではやや複雑な(?)スプライシングについて、概要からわかりやすくお話したいと思っています。

「生物とは何か?」という問いかけから始まった本講演。
生物の定義を支えるキーワードは「遺伝子発現」であり、そのプロセスの基礎研究に携わる講師から非常に丁寧な解説がなされました。
遺伝情報の「編集作業」とは何なのかという初歩的な説明に始まり、びっくりするほど繊細な作業を要する実験手法の紹介、幹細胞研究の第一人者を交えての専門性の高い議論まで、興味の尽きない講演でした。

ご講演ありがとうございました!