マンハッタンの片隅の、気さくな学際交流会

2016年9月30日 19:00

【9月】 勉強会開催

2016年09月30日 19:00

【9月】勉強会を開催しました。
ご講演、ご参加、ありがとうございました!

「心臓はどうやって鼓動するのか?〜ペースメーカ細胞による再生医療〜」

森川 久未さん(Columbia University, Medical Center)

心臓は、1分間に60回、生涯20億回にわたって拍動を続ける臓器です。
この心臓拍動は、右心房の洞結節に存在する『ペースメーカ細胞』と呼ばれる特殊な細胞によって制御されています。
ペースメーカ細胞が生み出す拍動リズムが心臓の刺激伝導系を通って、心房筋・心室筋細胞に伝わり、これらの細胞が同調して拍動することで、心臓はポンプとして機能し、全身に血液を送り出すのです。

このような機能を持つペースメーカ細胞であるために、ひとたび障害に陥れば、重篤な不整脈を引き起こします。
現在行われている唯一の治療法は、機械式ペースメーカの植え込み術ですが、機械ゆえの問題点も多数存在しています。

そこで我々は、ヒトES/iPS細胞から分化誘導した『生物学的ペースメーカ』の開発で、この病気の克服に取り組んできました。
今回は心臓の中でも、ちょっとマニアックな細胞;ペースメーカ細胞を中心に、心臓拍動の基本的なメカニズムから、その再生医療の開発についてご紹介します。

心臓といえば、私たちにとって最も重要な臓器であり、常に動き続けていることを感じられる存在でもあります。
にもかかわらず、心臓の拍動が電気信号によって調整されていることの説明に始まり、ペースメーカ細胞の働きや仕組みについての細かな解説に至るまで、知らないことだらけの大変興味深いご講演でした。
「動物によって心拍数が異なるのはなぜ?」といった初歩的な質問から、人工細胞を用いたバイオロジカル・ペースメーカの実験に関する専門的な質問まで、知識や意見の交換が活発になされました。
機械のペースメーカの問題点を克服しうるバイオロジカル・ペースメーカの将来性に期待しています。


「太陽光発電の限界を突破するためのストラテジー」

宮田 潔志(Columbia University, Department of Chemistry)

化石エネルギーに頼らない持続可能社会の実現。
21世紀の人類が抱えるこの最大の課題について、太陽光発電が強力なアプローチの一つであることは疑いないでしょう。
現在、世の中で実用されている太陽電池はほとんどがシリコンを材料として作製されています。
しかし、これは必ずしも万能ではなく、理論上の最大変換効率が30%程度に留まることや、洗練過程のコストが高く大面積化が容易ではないなどといった問題点を抱えています。
これらの限界を突破するためには、既存の材料とは違った新奇材料を探索する必要があります。

本講演では、太陽電池の光電変換過程を外観しながら既存の限界の根源を突き止め、限界を突破するための最先端の材料設計のストラテジーを最新の研究成果を交えながら紹介します。

シリコンを材料とする現在の太陽電池の問題点を、化学的な構造の観点から指摘し、それを根本的に打破する作戦について、分光学的な説明がなされました。
ストーリー性のある一連の流れが専門分野外の聴衆にとってもわかりやすく、本日の講演の主役でもある「有機無機ハイブリッドペロブスカイト」を始め、時折交じるマニアックな専門用語も苦にならずについていくことができました。
有機無機ハイブリッドペロブスカイトの太陽電池材料としての優秀さの理由が証明され、その構造・デザインが提案された今、その問題点を克服した新たな材料の開発が今後進んでいく可能性に期待を寄せています。