マンハッタンの片隅の、気さくな学際交流会

【7月】勉強会開催

2016年07月29日 19:00
【7月】勉強会開催しました。

ご講演ありがとうございました!

「数学と音楽のハーモニー 」

日比美和子 音楽学者・音楽ライター

音楽と数学の間には、古代ギリシャ時代から深い関係があります。
たとえばピュタゴラスは弦を張った装置を用い、弦の長さとそれを弾いて出る音との間に数的な関係を見つけました。
最近では、20世紀後半に北米の音楽理論家たちが生み出した音楽理論には、数学の集合論を応用した例が多く見られます。

19世紀末から20世紀初頭に、無調音楽という調性のない音楽が生まれます。
無調音楽はそれ以前の調性音楽の分析理論では分析できないことから、新しい理論の開発が期待されました。
そこで生み出されたのが様々なポスト調性理論です。
ポスト調性理論の代表的な理論であるピッチクラス集合論や変換理論は、数学の集合論を応用し、音を数字に変換し、数字の組み合わせによって音楽を分析します。
その利点は、作品が持つ様々なコンテクストを考慮に入れることよりも、音程そのものに内在する意味の解読に重きを置くことより、伝統的な音楽分析の慣習に捉われない方法で作品の構造を明らかにできることです。

今回の発表では、数学と音楽の関係性の例として、ポスト調性理論の特徴を紹介した後、その問題点を論じ、問題を克服するための新しい試みについてお話いたします。

私たちが一般的に耳にする音楽は、例えばハ長調(Cメジャー)やイ短調(Aマイナー)のような「調性」に則ったものがほとんどです。
その一方で、既存の調性とは違う音楽的性質を持つべく、理論的・数学的に考案された「無調音楽」が存在します。
無調音楽の作曲は非常にシステマティックで機械的で数学的でありながら、しかしその不思議な音色に意味や価値を見出すのは人間の感性。
「数学と音楽は切っても切れない間柄にあり、未来の音楽理論や作曲理論のためには、数学的な分析の手法が有効なのではないか」という斬新な切り口に触れて、音楽ファンも数学ファンも唸らされる講演でした。


「Einsteinの宿題の答え」

稲吉恒平(Columbia University, Astronomy)

重力波はブラックホールや中性子星といった強重力天体が運動することで生じる"時空の歪み"が波となって伝わる現象のことをいいます。
重力波の存在はEinsteinの考えた一般相対性理論が予言する現象の中で最も重要であり、長年の間多くの研究者が"Einsteinの最後の宿題"として検出を試みてきました。
そして、一般相対性理論の発表した1905年からちょうど百年後の去年2015年にアメリカのLIGOチームにより世界で初めて重力波の検出が成されました。

今回は、重力波観測の歴史を概観して、初検出までの経緯を簡単に紹介します。
また、重力波の検出が物理学・天文学に与えるインパクトを、個人的な興味と合わせて説明します。

2015年9月14日に検出に成功し、2016年2月11日に世界的に発表された重力波(Gravitational Wave)。
その存在を予言したのは、約100年前にアインシュタインによって世に出された相対性理論でした。
そうした歴史的経緯を踏まえ、今回検出された重力波の正体や重力波干渉計の仕組み、天文学界における今後の展開とアインシュタインからの新たな課題など、総合的に講演していただきました。
ほとんど計算式を登場させることなく、身近な例やエピソードを持ち出したり、身近でないはずのブラックホールを友達であるかのごとく語る「稲吉節」が、今回もまた非常にお見事でした。