マンハッタンの片隅の、気さくな学際交流会

2016年4月22日 19:00

【4月】勉強会開催

2016年04月22日 19:00

【4月】勉強会開催しました。

「ガラスは液体か、固体か?―第4の状態の解明を目指して―」
浅井誠さん(Columbia University, Chemical Engineering)

人類とガラスとの関係は古く、その歴史は紀元前4000年頃まで遡る。
我々はガラスと言うと、石英ガラス(ビーカーやコップ)やソーダ石灰ガラス(窓ガラス)を思い浮かべる。
しかし物理の世界では、ガラスというのは一つの物質をあわらす言葉ではなく、物質のある特定の状態を指す言葉であることはあまり知られていない。
そして、すべからく全ての物質は「ガラス状態」になりうる、らしい。
また、物理学者はこうも言う。
ガラスは一見すると固体のように見えるが、本当は「液体」なのだ、と。
数千年の時を経れば、流れ崩れゆくものはずである、と。
しかし、その様を見た者は未だかつていない。
それでは、なぜ物理学者はこのような珍妙なことを主張するのだろうか。

そこには、物性物理学最大の難問と言われるガラス転移の物理の、栄光と挫折の歴史があるのです。
私の講演では、その歴史の一端と最近の話題、この分野への私の仕事の話をご紹介したいと思っています。
 
 
直感的には「固体」であるようにしか見えないガラスですが、その分子構造を見てみると、「液体」と同じく、秩序構造が乱れていることが確認されるそうです。
つまり、ガラスとは「気体・液体・固体」とはまた違う第4の状態なのではないか、という今まで(文系人間の筆者が)想像もしなかったことをテーマに、ウィットに富む語り口で展開されたソフトマター・フィジックスの講演でした。
物質が「ガラス状態」に至るまでに抱える矛盾、構造を変えることでフラジリティを操作した実験など、ストーリー性抜群で、大いに知的好奇心を掻き立てられました。

 

「光で細胞内分子の機能を自由に操る技術、オプトジェネティクス」
河野風雲さん(Columbia University, Medical Center)

我々ヒトをはじめ、動物や植物、菌類に至るまで、ほとんどの生物は光を情報のひとつとして利用することで、外界の環境に適応しています。
すなわち、そこには光に応答するタンパク質が存在し、機能しています。
近年、この光応答性のタンパク質が持つ機能が、神経科学の分野で注目を浴びています。
緑藻類の一種であるクラミドモナスが持つ光応答性のイオンチャネル(膜タンパク質)、チャネルロドプシンがほ乳類の神経細胞において、光依存的に膜電位を瞬時に変える(発火させる)ことができると実証されたからです。
これにより、マウスなどの脳内において、特定の神経細胞だけの活動を光で自由にコントロールすることが可能になりました。
遺伝子工学的手法を用いて、光応答性のタンパク質を細胞内に発現させ、その機能を光でコントロールするこの技術は、オプトジェネティクス(光遺伝学)と呼ばれています。
現在では、オプトジェネティクスの研究対象は、神経活動をコントロールすることだけでなく、細胞内のさまざまな分子そのものの挙動や活性をコントロールすることにまで、大きく発展してきています。

今回は、植物やカビが持つ光応答性のタンパク質を基に、最近開発されたその新しい技術(光で細胞内分子の機能を自由に操る技術)の紹介と、その応用・将来性についてお話しさせていただきます。

Optics(光学)とGenetics(遺伝子学)の組み合わせであるオプトジェネティクス。
オプトジェネティクスの手法を使えば、脳の神経細胞に直接電極を差し込んで電流をながすよりもピンポイントで、神経細胞を発火させ、コントロールすることができるそうです。
講演中は、遺伝子学や脳科学、神経科学、光学など多様な立ち位置からの質問や意見、解釈、補足が飛び交いました。
新しいジャンルであるオプトジェネティクスが抱える問題と打開策、そこに寄せられる期待や提案される新展開を目の当たりにしました。

 

 


ご講演ありがとうございました!